1960年。日本は高度成長期だった。フランスはヌーヴェルヴァーグだった。そして中国では、世界の誰にも知られぬまま、人々が辺境で死に向かっていた。 中国西部、ゴビ砂漠の収容所。右派とされた人々が囚われている。轟々と鳴る砂と風。食料はほとんどなく、水のような粥をすすり、毎日の強制労働にただ泥のように疲れ果てて眠る。かつて百花のごとく咲き誇った言葉は失われ、感情さえ失いかけた男たち。そこにある日、上海から一人の女性がやってくる。愛する者に逢いたいと、ひたすらに願い、嗚咽する女の声が、いつしか男たち心に忘れかけていた生命のさざ波を広げていく………。