『鉄西区』、『鳳鳴―中国の記憶』で山形国際ドキュメンタリー映画祭の2度に渡るグランプリをはじめリスボン、マルセイユ、ナントなどの国際映画祭でグランプリを数々獲得し、いま世界映画の最先端に位置するワン・ビン(王兵)監督。本作は、そのワン・ビンの初めての長編劇映画であり、待望の日本初公開作品である。2010年ベネチア国際映画祭ではサプライズ上映され、ジャ・ジャンクー監督の『長江哀歌』に続く中国映画のグランプリ確実と、世界中の映画マスコミに絶賛された。
ワン・ビン監督は近代中国最大の傷跡である文革の嵐の前におきた、知られざる「反右派闘争」の悲劇を描く。その題材の衝撃とともに、轟々と鳴る風と砂の饗宴、闇に射し込む光の美しさを捉えたカメラに、人間と苛烈な自然とが織り成す残酷と美を目の当たりにし、見る者は言葉を失うだろう。
原作はヤン・シエンホイ(楊顕恵)の小説『告別夾辺溝』。ワン・ビン監督は、2004年に脚本を書きはじめ、さらに3年間にわたって実際の生存者たちをリサーチ。封印されていた悲劇に真正面から挑んだ。
何もないゴビ砂漠に収容所のセットを建てるという中国インディペンデント映画の枠を越えたスケール。スタッフには北京の一流スタッフを揃え、編集にはダルデンヌ兄弟の作品やカンヌ審査員特別賞『終わりなき叫び』で知られる名編集者マリー=エレーヌ・ドゾが参加。生存者の一人は出演もしている。「近年の中国から登場した、最も尊敬すべき映画」(ファイナンシャル・タイムズ)と讃えられながら、現在もなお中国本土での上映は禁じられている本作。
しかし、その衝撃を超え、死に逝く恩師にかけた1枚のコートが、砂漠にのこる男の口からこぼれる歌が、それらは一体何を物語るのか。ワン・ビン監督が、中国の歴史の記憶を語る事を超えて、人間とは何かを見つめた傑作が誕生した。