2015年ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門でのワールド・プレミアを皮切りに、数々の国際映画祭で上映されて高い評価を受けた本作。上海国際映画祭では主演の少女を演じるヤンチェン・ラモ(撮影開始時6歳)がアジア新人賞・最優秀女優賞を最年少で受賞し、話題を呼んだ。また東京国際映画祭では『河』という原題でワールド・フォーカス部門にて上映され、公開が熱望されていた作品である。
監督は、2011年に発表した長編デビュー作『陽に灼けた道』がバンクーバー国際映画祭でヤング・シネマ賞グランプリを受賞するなど、その第一作から独特な映像感覚によって映画的に物語を語る傑出した才能で、世界的な注目を集めた俊英、ソンタルジャ。これまでチベットを舞台にした映画は数々公開されて来たが、チベット映画人の監督作は本作が初めてとなる。同じチベットを舞台にしながら、外からの視点と内なる視点の相違を考えるのも興味深い。
海抜3000メートルを超えるチベット高原で半農半牧の暮らしを営む一家を主人公にした本作は、父親へのわだかまりをいまだ捨てきれない男グルと、その幼い娘ヤンチェン・ラモがやがて生まれてくる赤ん坊に対して抱く葛藤とを重ね合わせて描く。素人の俳優を使いながら、それぞれの心のうちを見事に描ききったソンタルジャ監督の演出力は卓越している。わけても6歳の少女ヤンチェン・ラモと子羊ジャチャの名演は観客を驚かせるだろう。