今回、ワン・ビンがカメラを向けたのは、中国で最も貧しいと言われる雲南省の山中の村に暮らす10歳、6歳、4歳の幼い三姉妹である。驚くべきことに、子供たちの両親は家に不在だ。母は家を出、父は出稼ぎにいった。近くに伯母や祖父はいるものの、姉妹は自分たちだけで生活している。わずか10歳の長女が幼いながら、母親代わりとなり、妹たちの面倒を見て、家畜の世話や畑仕事に一日を費やす。やがて、町から父親が戻り、子供たちを町に連れていくことを考えるが、経済的な問題から、長女だけが村に残ることになる…。ここにある貧困は、現代の日本から見れば信じ難いだろうが、戦後日本の貧しさに通ずるものがないとは言いきれない。そしてここには同時に、どんな環境でも輝く子供たちのいのちがある。びゅうびゅうと吹き続ける風に拮抗するかのような邪気のない逞しい生のエネルギー、ひとり残された長女の孤独と、孤独を知ればこそ生まれる人間の尊厳には、ただただ感動を覚えるばかりである。
雲南では、高地に暮らす村民の貧困を解決するため、低地への全村移住政策が推し進められ、本作が撮影された洗羊塘村もすでに全村移住が決まっている。だが、どこへいつ移住するのか、村民もまだ知らされていないという。本作は、政治的なメッセージを発する映画ではないが、急激な経済的繁栄に沸く中国に、これほどの格差が存在するという事実には驚かざるをえない。また、今もなお“ひとりっこ政策”が続いている中国にあって、三姉妹というタイトルにすでに中国社会が現在抱える問題を感じる観客も多いだろう。