ペルシャ猫を誰も知らない

No One Knows About Persian Cats

カンヌが笑い、涙し、心からの賞賛を贈った自由を求めるペルシャ猫の物語。

イントロダクション

実在の事件、場所、人物に基づいて、名作『亀も空を飛ぶ』のバフマン・ゴバディ監督が当局に無許可でゲリラ撮影を敢行

西洋文化の規制厳しいイラン。アシュカンとネガルは、好きな音楽を自由に演奏することだけを夢見ていた……。名作『亀も空を飛ぶ』のバフマン・ゴバディ監督が、当局の目を逃れながら、密かに音楽活動を続ける若者たちの姿を描いた、新たな傑作である。

出演者のほとんどは実在のミュージシャンたち。主役の2人は、撮影が終了した4時間後にイランを離れ、物語は彼らの実際の経験に基づいている。コンサートもCD発売も許されていないミュージシャンを撮影するために、ゴバディ監督は、当局に無許可でゲリラ撮影を敢行。デビュー作の『酔っぱらった馬の時間』からこれまでずっと、故郷のクルド地方を描いてきたゴバディ監督が、初めて大都会テヘランで撮影した作品となった。

イラン・アンダーグラウンド音楽シーンの驚くべき豊かさ!

観客をまず驚かせるのは、“西洋文化を禁止する厳格なイスラム国家イラン”というイメージからは想像もできない、アンダーグラウンド音楽の豊かさである。ロック、フォーク・ロック、リズム&ブルース、ヘヴィメタル、ラップまで、この音楽を耳にすれば誰もが喜びを感じるだろう。ミュージシャンの中には、合法的にアルバムを発表しているアーティストもいるが、多くは当局の目をかいくぐりながら好きな音楽を演奏し、逮捕と保釈を繰り返しながらも、音楽をあきらめない若者たちである。

誰も見たことのないテヘラン、リズムを刻む映像。名優ベーダードのユーモラスな台詞の速射砲!

映画の魅力は、もちろん音楽だけではない。自身、音楽を愛するゴバディ監督が、まさに楽曲のリズムでモンタージュしたような大都会テヘランの映像は、テレビのニュースはもちろん、イラン映画の名匠達の作品でも目にしたことがないヴィヴィッドな魅力に満ち溢れ、まさに誰もの姿が描き出される。さらにこの映画にスピード感を与えるのは、便利屋ナデルを演じる名優ハメッド・ベーダードの速射砲のごときユーモラスな早口台詞の数々!このユーモアこそイランの市井の人々の逞しさと讃えたい、愛すべきキャラクターである。

いつの時代にどの場所であっても「音楽は自由への翼」。

この映画は、ゴバディ監督が前作以降、新作の撮影許可がなかなか得られないという焦燥の中、知り合った若きアンダーグラウンド・ミュージシャンの苦悩に、自分自身の苦悩を重ね合わせるように制作された。
僕たちは好きな音楽をやりたい、ただそれだけなんだ――その気持ちは洋の東西を問わず、そしていつの時代でも変わらない、とてもシンプルな想い。テヘランの市井の人々の逞しきユーモアと若者たちの音楽への情熱。そして自由への溢れんばかりの痛切な想いを映画に込めて。ゴバディ監督は本作を最後にイランを離れた。

Story

ネガルと、そのボーイフレンドのアシュカンはともにミュージシャン。インディー・ロックを愛する彼らは、演奏許可が下りないテヘランを離れてロンドンで公演することを夢見る。しかしアシュカンは、無許可で演奏したという理由で逮捕され、ようやく釈放されたばかり。バンドのメンバーもばらばらになってしまった。2人は危険もかえりみず、違法にパスポートやビザを取得しようとする。

エンジニアのババクに相談した2人は音楽のためなら何でもござれの便利屋ナデルを紹介される。ナデルは2人が無許可でつくったCDを聞いて彼らの才能に驚き、国を出る前に、自分がCD制作の許可もコンサートの許可も取りつけてやると大見得をきる。

そのために、まずバンドのメンバー探しを始めた彼らは、有名歌手ラナ・ファルハン、牛小屋で練習をしているヘヴィメタル・バンド、3度逮捕され現在は密かに練習をしている友人のバンド、ババク率いるブルース・バンド、海外に言ったことのあるフュージョンバンド、イラン最高のラッパー、ヒッチキャスなど多岐に渡るミュージシャンの元を訪れる。

演奏許可など出るはずはない、と思っているネガルは、とにかく偽造パスポートが手に入るかどうかを心配している。2人はナデルに頼んで、偽造なら一手に引き受けている老人ダウッドの元へ行く。それでも不安がないわけでなく、ロンドンで演奏するための曲づくりははかどらない。コンサートさえ開けば、金は工面できると、ナデルは2人を安心させるが……。

あなたと歩いて行きたい 霧の街を抜けて 緑の枯れない国へ あなたと家にいたい そこには窓があって海が見えるの 庭には木を植えブランコを置きたい 大きな椅子に2人で座り 一緒にくだらない番組をテレビで見るの ベッドでぐっすり眠りたい 太陽が出るまでもう一度 幸福がいっぱいのグラスに食べ物がいっぱいの皿 手巻きの時計は壊れて動かない 毎日が今日のままで明日が恐くないように