イランでは1979年にイスラム革命が成立すると、西洋文化が規制されるようになった。時代によって緩和されたこともあったが、近年は再び「イスラム的ではない」文化への規制は厳しい。基本的にハリウッド映画は映画館では上映されていない。
イランでコンサートを行ったり、CDを出したりするには、「イスラム文化指導省」という省庁の許可が必要。最近は許可される音楽ジャンルの幅は広がったが、歌詞が厳しく審査される傾向にある。
今はネット時代。音楽に国境はない。ペルシャ語のヘヴィメタルもあれば、ペルシャ語のラップもある。若者たちの好きな音楽は日本と変わらない。ただ無許可の音楽は、逮捕される危険があると言うだけだ。
音楽と同様に、映画製作の場合も、指導省に脚本を提出して撮影許可を得て、製作が可能になると当局に帰属する35ミリカメラを使用する事ができる。本作の前のプロジェクトで、撮影許可が下りず断念したゴバディ監督は、今回は自身で購入した、小さく軽く起動力のあるSI-2Kカメラを用いて、無許可で撮影。ゲリラ撮影だからこそ、今までどの監督も描くことのできなかった、テヘランの姿をみることができる。
これまで日本で公開されたイラン映画でテヘランを描いた主なものには、次のような作品がある。これらの映画を見れば、本作のテヘランの映像がいかに新鮮であるかがさらに実感できる。
サントゥール奏者(2007/ダリウシュ・メールジュイ監督)
少女の髪どめ(2001/マジッド・マジディ監督)
テヘラン悪ガキ日記(1998/カマル・タブリーズィー監督)
運動靴と赤い金魚(1997/マジッド・マジディ監督)
パンと植木鉢(1996/モフセン・マフマルバフ監督)
その他、アボルファズル・ジャリリ監督の『7本のキャンドル』(1994)『かさぶた』(987)、アッバス・キアロスタミ監督の『クローズ・アップ』(1990)もテヘランが舞台。街はほとんど映らないが、ジャファル・パナヒ監督の『オフサイド・ガールズ』(ほとんどスタジアム)、キアロスタミ監督の『10話』(ほとんど車)もテヘランだ。
この映画がカンヌ国際映画祭で大きな話題になった理由のひとつ。それは、ジェネラル・プロデューサーと共同脚本のクレジットに「ロクサナ・サベリ」の名前があったことだった。彼女は、2009年2月にイランでスパイ罪に問われ3カ月半拘束された後、釈放されたアメリカのジャーナリストで、日系米国人とイラン系米国人の家族の出身。拘束された時にはイランとアメリカの国際問題に発展し、大きなニュースとなった。バフマン・ゴバディはインタビューの中で彼女を「婚約者」と紹介し、本作が彼女のアドバイスから始まったことを話している。