風車の出てこないドン・キホーテ物語『騎士の名誉』(2006カンヌ国際映画祭監督週間)やカサノヴァとドラキュラが出会う『私の死の物語』(2013ロカルノ国際映画祭グランプリ)などで世界を呆然とさせてきたカタルーニャ出身のアルベルト・セラ監督。古典や歴史上の著名な人物を題材にしながら、「恐るべき」というべき躊躇ない現代性で、誰も見たことのない、時空を超える映画を創造しつづけている。その才能は映画のみならず、戯曲の執筆、舞台の演出、映像によるインスタレーション、パフォーマンスなども自由に手掛け、ヨーロッパで「21世紀の前衛」と称される異才の、その驚くべき作品が、ついに日本で劇場初公開です。
アルベルト・セラの長編劇映画4作目にあたる本作の題材は、フランスの王、ルイ14世(1638-1715)。“太陽王”と呼ばれ、豪奢を尽くしてヴェルサイユ宮殿をつくったこの歴史的人物には、ジャン=ピエール・レオ。ヌーヴェルヴァーグの申し子と呼ばれ、今年74歳になる伝説の俳優が、どんなルイ14世を演じるのかと思いきや、なんとセラ監督は死の床の数週間だけに焦点をあて、左脚の壊疽から死に向かう王=レオは、ほぼベッドの上。本作の後にレオが主演した『ライオンは今夜死ぬ』(諏訪敦彦監督)で改めて証明されたその存在感は、ここではさらにラディカルな形であらわれ、「ジャン=ピエールだからこそ、死を現代的に描くことができた」(セラ監督*日本オリジナル・インタヴューより)という肉体と精神を刻印している。
セラ監督がインスピレーションの源としたのは、宮廷の生活をつぶさに記録したサン=シモン公の「回想録」と廷臣であったダンジョーが書いた「覚え書,別名ルイ 14世宮廷日誌」。死にゆく王と、その周りの医師や側近、貴族たちをまるで昆虫を観察するように仔細に、ドラマチックなクライマックスを排除した大胆さで描いている。撮影は、フランスの南東部にあった廃墟となった城。5週間をかけてつくりあげた絢爛たるヴェルサイユの王の寝室が、ほぼ全編の舞台である。セラ監督は3台のカメラで、ロウソクの火が照らしだす美術や衣裳を映しだすとともに、食欲も失せた王がビスケットを口にしただけで「ブラヴォー!」と叫ぶ貴族の陳腐さをも映す。恐るべき現代性で、18世紀の王の死に新たな血肉を与えて時空を超える、誰も見たことのない傑作の登場です。