Director

監督・脚本  ホン・カウ/ Hong Khaou

1975年10月22日、カンボジアのプノンペンに生まれる。ヴェトナムで育ち、後にロンドンへ移住。1997年にUCA芸術大学を卒業。当初はファイン・アーツを目指すが、映画により惹かれるようになり、映画製作を学ぶ。その後、BBCとロイヤル・コート劇場の【50人の新進作家】プログラムに選ばれ、多くの企画に加わって脚本の経験を積む。独立系映画会社で働きながら、映画の製作を始め、2006年のベルリン国際映画祭で上映された『Summer』、2011年のサンダンス映画祭で上映された『Spring』、2本の短編で大きく注目される。2013年にはスクリーン・デイリー紙が選ぶ【明日のスター】に選ばれるなど次世代を担う才能と期待されている。本作が初の長編。好きな映画監督は、フェリーニ、ファスビンダー、イギリス映画ならヒッチコック、デイヴィッド・リーン、マイケル・パウエルなど。より新しい時代の監督では、本作を作る際に影響を受けたジョン・セイルズ、そしてキシェロフスキとダルデンヌ兄弟を愛する。

Director's Interview

── この題材を選んだきっかけは?

ホン・カウ(以下HK):この映画の主題は、僕のとてもパーソナルな経験から生まれた。自伝的な物語という訳ではないけれど、とても親密なもの。僕は移民で、英国生まれではないが今ではとても西洋化している世代で、中国語と英語のバイリンガル。そして僕の母は映画の中のジュンのように今もまだ英語があまりできない。子供の頃から、よく母のために通訳をしていた。だから、通訳というコミュニケーションにも興味があった。コミュニケーションとは互いが理解するためのものであり、異なる文化にかける橋でもあるけれど、一方で、違いをより強く感じさせるものでもあり、時に争いを導くものでもあると思う。

── 母と息子の関係、愛する者を失う喪失感、言葉や文化が違う人間の間にあるギャップと言葉を越えた共感など、この映画は何種類もの美しい糸で織り上げられたようなテクスチャーを持っていますが、脚本を書く段階で最初にあったアイディアは何でしたか?

HK:最初に考えたのは、英語が話せない母親が、突然、社会とのライフラインである息子を失った時、どうするのだろう、というアイディアだった。それも大都会ロンドンのような街で。自分の母が年老いていくことにどう対応していくのか、よく考えていたんだ。そして物語を書き始めたら、一つのシーンが次のシーンを呼ぶというように生まれてきて、それを紡いでいった。悲しみ、世代の違い、文化の違い、コミュニケーション、そんな題材が響き合うように生まれてきた。

── この映画の素晴らしさには、まず、あなたの演出の繊細さ、映画全体に生まれているリズムがありますね。

HK:そう言ってもらえると嬉しい。映画のタイトル(原題:LILTING)には、何かをリズミカルに動かすというような意味があって、そこからも分かるように、この映画にはリズムが必要だと考えていたんだ。この映画には、そんなクオリティがたくさんあると思う。たとえば、言語、音楽、ダンス、そしてカメラの動きなどにね。

── ベン・ウィショーとチェン・ペイペイの存在感と演技がこの映画に大きな魅力を与えています。二人を選んだ理由と、彼らの出演が決まった経緯を教えてください。

HK:この映画には、微妙で繊細な表現ができる俳優の演技が重要だった。ベンは『パフューム』を見て以来、ずっと素晴らしい俳優だと思っていた。リチャードというキャラクターには、ベンの繊細さと同時に、感じているものをすべての人に伝えられる、むき出しの強さがぴったりだとすぐに思った。でも低予算だから無理だろうと思って「ベンみたいな人がいいな」とキャスティング・ディレクターのカーメルに言ったら、彼女は素晴らしい人で、「だったら、本人にコンタクトしましょう」と言ってくれたんだ。それで、なぜあなたが僕の映画に必要なのか、ただビッグスターだから出て欲しいのではなくて正当な理由があるから出て欲しいんです、とベンへの手紙を添えて、エージェントに脚本を送ったら、なんとベンが受けてくれた。
ペイペイの役はキャスティングが本当に難しかった。あのくらいの年齢で、台詞は中国語だけでも製作のことを考えるとバイリンガルでなくてはならない。それで幼い頃から憧れていたペイペイが出てくれたらと、ふと思った。彼女は伝説だった。そんな話をしていたら、友人のシンガポールの監督(エリック・クー)が、彼女のカナダにいるマネージャーを知っているというマレーシアのプロデューサーを紹介してくれた。本当に幸運だった。ベンとペイペイだなんて、とても不思議なコンビネーションだよね。

── 劇中にはカイとリチャードのシーンは3つしかないのに、二人が長く愛し合っていたことがよく伝わってきます。

HK:たった3つのシーンで彼らの結びつきを表現できるかとても不安だった。でも一方で、あれ以上シーンを増やすと、リチャードが彼を恋しく思う(missing)のと同じ感情を、観客に感じてもらえなくなると思ったので増やしたくはなかった。ベンとアンドリューには、二人が長く一緒に過ごしてきた感情を作り出してもらうために、2週間のリハーサル期間中、脚本についてたくさんの話をしてもらった。そこから演技のアイディアも生まれてきた。リチャードの足をカイが胸にあてるシーンは、そんなリハーサルから生まれた演技なんだ。

国際版プレス+オリジナル・インタビュー(2015.2.4)より編集
インタビュー通訳:王愛美