1941年10月20日、ナチ占領下のフランスで1人のドイツ将校が暗殺される。ヒトラーは即座に、報復として、収容所のフランス人150名の銃殺を命令。過度な報復に危険を感じたパリ司令部のドイツ軍人たちはヒトラーの命令を回避しようとするが、時は刻々と過ぎ、政治犯が多く囚われているシャトーブリアン郡の収容所から人質が選ばれる。その中に、占領批判のビラを映画館で配って逮捕された、まだ17歳の少年ギィ・モケがいた……。
ギィ・モケはその若さゆえ、戦後、ナチ抵抗の悲劇の象徴となり、その名はパリの地下鉄の駅の名前にもなった伝説の少年である。しかし、21世紀を迎えた今。シュレンドルフ監督は、伝説ではなく、歴史の真実を描きだそうとした。収容所のフランス人たち、困難に直面したドイツ軍人やフランスの行政官、銃殺を命じられたドイツ兵らの重層的なドラマを、感傷の入る余地のない速度で進めていく透徹した演出は見所のひとつだ。
一度回り始めた歯車を誰が止めることができるのか。報復のための人質選びを命じられたフランスの役人も、反ナチスのドイツ将校も、誰の良心もヒトラーの命令を背けなかった。「あなたは何に従う?命令の奴隷になるな」というメッセージが胸に突きささる。ドイツ人監督によって描かれたフランス、シャトーブリアンの悲劇は、その歴史を記憶することこそが、過去を乗り越え、和解へと向かう道筋だと伝えている。
監督は、ドイツの名匠フォルカー・シュレンドルフ。いわばドイツの過去の罪といえる史実を、シュレンドルフは独仏合作で完成させた。フランスを第2の母国とし、「両国の和解なくしてヨーロッパはない」と明言する名匠の思いを、本作に結実させたのである。主演のギィ・モケには、本作でベアリッツ国際映像祭最優秀男優賞に輝いた若手、レオ=ポール・サルマン。他に当時パリ司令部付きのドイツ大尉であった作家エルンスト・ユンガー役にウルリッヒ・マテス(『ヒトラー〜最期の12日間〜』)、人質たちのリーダーであるタンボー役にマルク・バルベ(『最後のマイ・ウェイ』)、さらにフランスの名優ジャン=ピエール・ダルッサン(『ル・アーヴルの靴みがき』)は短い登場シーンながら神父役で深い印象を残している。なお、本作は2001年に96年作『魔王』が公開されて以来、シュレンドルフ監督の13年ぶりの日本公開作品である。