Characters

“パプーシャ”ことブロニスワヴァ・ヴァイス

現在のポーランドにあたる地域を、馬車を連ねたクンパニア(キャラバン)を組んで旅をしていたジプシーのコミュニティに生まれた。パプーシャ(ジプシーの言葉で「人形」の意)という愛称で知られ、イザベル・フォンセーカの名著『立ったまま埋めてくれ――ジプシーの旅と暮らし』(青土社、1998年)にも登場する。彼女の詩の才能は詩人イェジ・フィツォフスキによって発見されたが、当時のポーランド社会主義政権の徹底した同化政策に利用されることとなり、晩年はジプシーのコミュニティを追放され、孤独を生きた。パプーシャは、ポーランドを代表する女性詩人60人にも選ばれている。なお、パプーシャの実話に感動したアイルランド人の新鋭作家コラム・マッキャンは、舞台をスロヴァキアに移し、長編小説『ゾリ』(みすず書房、2008年)を発表した。

*生年は1908年説と1910年説があり、本作では1910年を取っている。

イェジ・フィツォフスキ

1924年9月4日、ワルシャワ生まれ。第二次大戦中は、ドイツ占領下で国内軍のメンバーとしてワルシャワ蜂起に参加。戦後、ワルシャワ大学で哲学と社会学を学ぶ。1948年、最初の詩集『ブリキの兵士』を出版。その後、ジプシーたちとともに2年間を暮らす。1953年『ポーランドのジプシー』を刊行。ユダヤの文化や民間伝承の収集・記録・研究にも大きな業績を残している。また、スペインの詩人ロルカの専門家でもあり、『ジプシー歌集』を翻訳している。1977年、ポーランド・ペンクラブ賞を受賞。2006年5月9日、ワルシャワで死去。日本で出版された著作に『太陽の木の枝-ジプシーのむかしばなし』(福音館文庫/内田莉莎子訳、2002年)がある。

ユリアン・トゥヴィム

ポーランドを代表する詩人。1894年9月13日、ウッチ生まれ。ワルシャワ大学で法律と哲学を学ぶ。1918年に創設されたワルシャワの前衛芸術家グループ「スカマンデル」のリーダー的存在で、当時のポーランドで最も有名な詩人であった。同グループに属する著名詩人には、ヤロスワフ・イヴァシュキェヴィチ、ヤン・レホン、アントニ・スウォニムスキ、カジミェシュ・ヴェジンスキなどがいる。第二次世界大戦勃発後、ナチス侵攻前にルーマニア、フランス、ポルトガル、ブラジルを経て、1942年にニューヨークに亡命。1946年6月、ポーランドに帰国した。1953年12月27日死去。いわゆる「文学的」な詩だけでなく、風刺人形劇、児童詩など創作は多岐に及ぶ。大戦末期には、トゥヴィムの全作品中、今日最も愛唱されている児童詩(「蒸気機関車」「アルファベット」など)が生まれた。46年の帰国後は、戦後ポーランドの体制を肯定するメッセージ性の強い詩を発表した。現在、日本語で読める作品に、浅井金蔵訳『わが人生』(「世界名詩集大成 15 北欧・東欧篇」平凡社、1960年所収)。伊藤比呂美訳『アルファベット他四篇』(「ポーランド文学の贈りもの」恒文社所収)。スズキコージ(文・絵)『ガブリシ』(ブッキング社刊)。

参考:ポーランド広報文化センターHP