

Q. まず、この映画の始まりについて教えてください。
A. この映画はまず、タイのランプーン県にある水上学校で教えているサーマート先生という方の話をプロデューサーが教えてくれたことから始まりました。とても素晴らしく、特別で、たくさんの人々と共有したい物語だと思いました。ですから実は、最初のアイディアには、ラブストーリーの要素はなかったんです。
Q. では、ラブストーリーはどこから?
A. それもまた同じプロデューサーに聞いた実話からです。プロデューサーの友人のある男性が職場を変わった時、自分に新しく充てがわれた机の中に、知らない女性の日記を見つけた、そしてその日記を読んでしまった、そうしたらとても感動してしまい、彼女を探し出して連絡を取った、そして最終的にその2人は結婚をしたという話です。それでふと、水上学校と、この2人の話がつながるのではないかと思いました。
Q. それはどんな理由から?
A. ポイントは水上学校というロケーションでした。都会から離れた山奥にあるという距離感が寂しさというものを生み出します。その寂しさと愛というものがつながっていると思ったんです。現代は、人と“つながる”のは簡単な時代だとされています。携帯やメールやフェイスブックで、いつでも連絡が取り合えるし、自分の思うことを伝えるのも技術的には簡単になっている。そういう時代だから、英語でいう「MISS YOU」という言葉の(通訳補足:日本語だと「想いを募らせる」という意味の)感覚が、心に響くと思いました。つながる環境がない状況で、お互いに“想いを募らせる”ことは、かけがえのないことなんじゃないか。そんな発想から、この映画が生まれたわけです。
Q. 日記というアナログなツールが効果的ですね。
A. 山奥の水上学校で孤独に生活しなくてはならず、そんな孤独な場所で、もし自分と似たような経験をした人の日記を見つけたら、日記が自分と友達になってくれるのではないか。デジタルツールと違って、手書きの日記には人柄があります。「会ったことがない誰かと恋に落ちることは可能なのか」。それを観客に信じてもらえるかどうかがこの映画の大事な部分でしたが、人が誰かを好きになる時、最初は見た目もあるでしょうが、結局は互いの考え方を好きになるものではないですか? 会ったことのない人を好きになるのはあり得ることなんですよね。
Q. 監督が幼かった頃、タイ映画は年に10本程度しか制作されていなかったと聞いていますが、なぜ映画監督になりたいと思い、映画学科に進んだのですか?
A. たしかにタイ映画は多くなかったのですが、子供の頃から映画を観るのが大好きでした。でも、大学に入った時は特に映画の勉強はしていなくて、ターニングポイントになったのは、大学1年の時に、先輩たちがつくったショートフィルムの上映会を手伝ったこと。自分も映画をつくってみたいと思いました。それで3~4年で映画の専門課程をとりました。その時の仲間が『フェーンチャン ぼくの恋人』の監督仲間で、大学の先生がプロデューサーだったんです。若い頃に一番好きだった映画は、ビル・フォーサイス監督の『ローカル・ヒーロー/夢に生きた男』、そしてトルナトーレ監督の『ニュー・シネマ・パラダイス』。それから、ぜひ言わせて欲しいのですが、僕は日本の漫画やアニメも大好きで、あだち充さんの作品が特に大好きです。一番影響を受けた方と言ってもいいほどですよ!
2015年9月21日 東京にて(通訳:福冨渉)