今回のパネルディスカッションでは、ご参加の皆様からのご質問受付に、お手持ちのスマートフォンまたはタブレット端末を使ってのオンライン投票・投稿システム「イマキク」でキャリー・ウェルチさんとの質疑応答を行いました。 すべてに回答いただく時間はありませんでしたが、会場での回答と後日追加で回答くださった内容を紹介します。

・ニューヨーク公共図書館の成果、評価はどのように行われるか?結果、継続するサービス、見直しされるサービスの流れ、プロセスを教えて下さい。
・日本だと入館者数、利用者数で図書館のことが評価されることが多いかと思うのですが、NYPL の場合、どのような事柄が評価されるのでしょうか?
キャリー:一口でお答えするのは無理です。動員数を評価基準にしてしまうことが多いのではないかという疑問だと思いますが、私たちは、その時々の状況とその時々のニーズに合わせ、きめ細やかな評価基準を導入しています。評価専門のスタッフも抱えております。分かりやすい例を出しますと、例えば英語を身につける大人のための英語教室の場合には、出席率とともに、最後には仕事の面接ができたかということです。そのほか皆さんが「あれは凄くよかった」「人生変わった」とおっしゃってくれる声です。また、具体的に、パイロット・プログラムという試験的な企画を、観測気球的にやってみて、感触を得たり、体験を重ねることも率先してやっています。そういった意味で、リスクのある企画に挑むことにも躊躇しません。
・幹部会議が大変面白かったです。本当に毎回あのように、意見が対立しても建設的な会議が行われているのでしょうか?つまらない縄張り争いや、足の引っ張り合い、責任の押し付け合いなとはないのでしようか? 幹部の皆さんが、会議の時に共通して最も大切にされていることは何ですか?
キャリー:秘訣はないです(笑)。会議というのは、私の人生において、本当に最低に一番嫌いなもの、私の存在全てに呪いを与えてくれるものだと思っています(笑)。個人的な感想は横に置いておくと、あれは幹部会議という位置付けのもので、週に1回2時間に渡って事前に決めた議題でやっています。非常に生産的です。終わった後には、書記係から、「はい、宿題」とEメールでダメ押しをされて、次の会議の冒頭できちんと正直に発言しないといけないことになっています。私がなぜ会議が嫌いかと言うと、私は今、5つの部門で総勢140名のスタッフを統括するという形で働いています。その責任者をやっていますと、全員に対する監督責任が発生し、はたと気付くと朝8時から夜6時までずっと会議が続き、終わったと思うと、それからようやく自分の本来やるべき仕事ができる、ということになるので、会議とは私の人生に対して呪われたものという最初のコメントに繋がるわけです。ただアメリカのNPOの場合には、非営利であれば、どうしても会議を経てやらなければならないのがお約束ですので、それが現実なのです。
・ニューヨークは世界有数の出版都市でもあります。NYPLと出版社、もしくは書店との関係で何か特別な取り組みがあればご教示下さい。あるいは、図書館が出版社や書店をどう考えているのか、ということでも結構です。
キャリー:面白いご質問ばかりでとても嬉しく思います。日本の状況を全てわかっている訳ではないのですが、図書館と出版社の間に色々なことがあると聞きますが、アメリカの場合にはそういったことは、基本的にありません。まず、アメリカにおける出版の一大中心地はニューヨークであるということは皆さまご存知の通りが、その中で、私たちは嘘偽りなく出版社といい関係を作っています。出版社だけではなく、実際に執筆する側の小説家や物書きの方々、皆さん、協会に入って団体交渉などをやりますが、そうした組織の皆さんとも非常に良好な関係を築いています。
アメリカの図書館と出版業界、それに関わる出版人たちとの関係を、何が基本的に特徴づけているかというと、書く人も出す人も図書館の価値を信じていることです。図書館は、まず読書習慣、本を読むことが当たり前になるような、そうした場をつくっている。だから出版業界全体が図書館は良いものだということを大前提として捉えています。図書館に本を置くからといって、それで本の売り上げが落ちるということは全く心配していないようです。また実際問題として、図書館というと皆さんは、本を借りに行くと思いがちですが、私の友人を見ましても、実は、イベントに行く、調べものに行く、図書館でしかアクセスできないデータベースを使いたいから図書館に足を運ぶ、だけど本は自分で買います、という主義の人がいます。他の人が触れた本を読むのは嫌とか、順番待ちが耐えられないとか、色々と理由はあるのでしょうが、とにかく、本は読みたければ自分で買います、でもそれ以外の理由から図書館は多いに活用しますという方たちも多いのです。
・ニューヨーク公立図書館は、どのようなスタッフの人材育成が行われているのか、また、その資質を持った人を大学等で育成してるのか、採用基準があるのか、教えていただきたいです。
・NYPLに日本人のスタッフはいますか? NYPLで働くにはどんなスキルが必要ですか?
・日本はスタッフの雇用が不安定という課題がありますが、NYPLでのスタッフの雇用体制はどうなっていますか?
キャリー:基本的にアメリカの大学や研究機関と同じようなニーズがあり、司書は学歴を求められます。まず、図書館学・図書館情報学については学士をとった後に、修士。これは絶対に必要になります。リサーチ関係、研究関係のキュレーターなどを担当している職員ですと、博士号は当たり前で、それが最低限という感じになっています。ですが、それ以外の仕事や、それ以外の関わり方も沢山あります。
日本人スタッフですが、日本人なのか日系人なのか、アメリカ育ちの日本人かもしれませんが、日本系の方は何人かいらっしゃいます。
仕事として色々な関わり合い方があると言いましたが、50年間---確認しましたので間違いありません---に渡り、私たちは「ページプログラム(page program)」をやっています。「ページ」には、本のページだけではなく、「お小姓、使い走り」といった意味もあるところから来た名称です。低所得層の住んでいる地域の15歳くらいの高校生に対して仕事の場所を与えるプログラムです。放課後に、例えば15歳くらいから図書館の仕事を手伝ってもらい、彼らが卒業してからもずっと手伝ってもらう。その仕事を通して、知識や経験を積んでもらい、ひいては大学に進学したり、そういった形でずっと図書館に関わっていくことができるシステムをつくっています。そういった関わり合いも含め、色々な仕事があります。
能力向上のための職場での訓練やトレーニングの機会はもちろん設けています。「スタッフ・ディベロップメント(staff development)」ということで職員の能力育成を担当する部局HRが人事の中に設けられています。先ほどお話した50年の歴史を誇るページプログラムの卒業生の一人が、実は今、HRの人事部門の事実上の総責任者をやっています。
訓練については必須のものと、チャレンジしたい人が受けられるものと、色々と混ぜています。基本的にそこでよく使われているのは「イントラネット」というニューヨーク公共図書館の中だけで使われている安全に守られた環境、つまり外部から全くアクセスできないものを使ってのトレーニング・プログラムをかなり充実させています。そしてそれを使って自分たちで能力を高めたいという場合にも、場を提供しています。
・ニューヨーク公共図書館では、寄付者や市、州などの出資者が「この本を置いてはいけない」というような思想や情報の制限を主張してくることは起きていますか?
キャリー:まず私たちは出版社ではありません。そういった意味では、書籍に対する責任者ではないということです。また、アメリカにおいては当然のことですが、アメリカ憲法の精神の根幹である言論の自由、他によって絶対に剥奪されることもなく、譲ることもない、そうした権利としての自由というものを、私たちは信じています。私たちは検閲ということに断固として反対しています。
寄付者、市、州などが私たちの活動を制限するということを私自身は経験したことはありません。私が着任する前にあったかどうかはわからないと答えざるを得ませんが。
・ニューヨーク公共図書館職員の方々の熱意、やる気、献身的なものはどこから来るのでしょうか?なにか理由と思われるものはありますでしょうか?
キャリー:私自身のことしかわかりませんが、素晴らしい目的に向かって、それを実現する為に尽くすことができる、ということが最大の魅力ではないかと思っています。つまり、献身的なスタッフが集まるのは、それだけの大きな理想を掲げているからではないかということ。もうひとつには、私たちの図書館はある意味で司書にとって究極の存在ではないかと思うところがあり、そのために皆さん一生懸命勉強されている訳ですから、今までの評価、実績、ミッションそれぞれが総じて相乗効果を出しているのではないかと思っています。そして正直に言いますと、ニューヨークという大都会で、あえて非営利部門に身を置くというのは献身的でなければできません。民間の方が給料は良いですから。非営利の図書館で働くのは、過酷でもありますが、それでもやりたい、やりがいがあるわけです。
・場としての図書館をテーマとして研究をしている大学院生です。映画でもダンスシーンがありましたが、日本の公共図書館では情報サービスに直接関係ないものは、公民館など他の公共施設がやるべきではないかという意見もあるように思います。米国では、公民館や市民ホールなどの公共施設はないのでしょうか、また、ある場合はどのような役割を担っているのでしょうか。
キャリー:ニューヨーク市の他の部局でもこういった類のことをやっていると思いますが、なぜ図書館がそういう活動に相応しいかというと、やはり市民の皆さんが信頼してくださっているからです。ここであれば変に気負わず構えないで、すぐに行くことができる。日常の延長線上として、ここであれば安心で安全で何の心配もない、いつでも行くことができる場所だと皆さんが思ってくださっている点がとても大きいと思っています。それは役所などではできないことです。図書館という場所は、地域社会の一つの要であり、私たちには88の分館がありますから、皆さんのご近所にひとつはある。いつでも行くことができて、行けば知り合いに会えるかもしれない。そういう点で気軽に行きやすい。また、世界的な金融恐慌以降、アメリカでもそうですけれども、いろんな組織が費用削減で厳しい状況となり、従来通りのサービスになかなか立ち返れていないという実情もあると思います。
・キャリーさんが今イチオシのNYPLのオススメイベントを一つ教えてください
キャリー:何かを選んで贔屓をしてはいけないのですが(笑)、個人的にこれからとても楽しみにしているのが、俳優のティルダ・スウィントン自らが「オルランド」を語るという企画です。彼女は映画『オルランド』に主演していました。そして実は私たちの図書館の宝のひとつが世界最大級のヴァージニア・ウルフ・アーカイブなのです。彼女が入水自殺をしたときに持っていたステッキも私どものコレクションです。「アパチュア(APERTURE)」という有名な写真雑誌があるのですが、その雑誌が今度「オルランド」の特集を組むということもあり、またティルダ・スウィントンも図書館に来てくださるということで、では6月にトーク企画をここでやりましょうということで実現しました。 もうひとつは、ケネディの次に大統領になったリンドン・ジョンソンの決定版と言われる伝記を書いたロバート・キャロルという作家がいるのですが、その方が最近「ワーキング」という、どうやって自身が執筆するのかということについて明かしている本を出版しました。滅多にトークなどはしない方なのですが、私たちの企画に登場してくださるということでとても楽しみにしています。
私たちのWEBサイトを訪ねていただければ、数々のイベントや企画が紹介されていますので、ぜひ皆さんご覧になってください。


時間の関係で回答できませんでしたが、会場からはたくさんのご質問をいただきましたので、主なものを下記にご紹介いたします。皆様、ご質問をありがとうございました。

・以前、NYPLを訪問した際に子供用の部屋に日本語を含めた多言語の絵本がたくさん置いてあることに驚きました。こうした外国語の絵本はどういった方針で、どのように選んでいるんでしょうか?各国語がわかるスタッフがいるのでしょうか。日本にも外国人の方が増えてきましたが、NYPLの多言語対応についてお聞きできればと思います。

・市や市民のニーズにこたえるということは、一方で目の前の短期的なニーズに引きずられる面もあると思いますが、そのかじ取りはどうされますか。特に、館全体のパフォーマンスや個別の活動の評価の手法との関係でお聞きしたいです。

・シブルは起業支援にシフトされているとのことですが、起業という点で、西海岸のLuxやサンフランシスコからの発信や動きにはどれくらい注目されてますか?

・分館のエピソードの話をいくつか伺ったので、リサーチライブラリーについても聴きたい。 現在のNYPLのリサーチライブラリーのコレクション収集や、サービスにおいて直面している課題や、取り組もうとしている新たなテーマがあればお聴きしたい。

・リサーチライブラリーでの司書の最も大事な役割は何でしょうか?

・今後必要だと思う新しい機能やアイディアはありますか?

・日本は超高齢社会です。公共図書館における高齢者サービスについてNYPLでの特別なプログラムを教えてください。

・こうしたクリエイティブな図書館が生まれたきっかけ、創立の中心メンバーや組織はどのようなものだったのでしょうか?

・旅行者へのサービスについて教えて欲しいです。

・GoogleなどのWebサービスの発展により、貴館のレファレンスサービスの傾向に変化はありましたか?

・ファシリティ面で工夫しているところは、どんなところでしょうか?

・ユーザーの情報リテラシーの高さはどうやって育まれているのでしょうか

・日本では人件費、資料費、施設費諸々含めて年間予算100万ドルに満たない図書館が殆どです。このような図書館でも出来ること、優先すべきだと思うこと、等々あれば何でも教えてください。

・NPLにおいて、情報を生み出すこと、企画することの大切さが語られておりましたが、ライブラリアンが非常に重要な役割を果たしていると思われます。一方で 日本の図書館ではライブラリアンが確立されていないようにも感じます。具体的にはどのような違いがあると考えられますか?また今後、どのような体制が必要だとお考えでしょうか?

・司書の評価や昇級はどのように行うのでしょうか?

・アメリカでの図書館司書資格取得希望者は、増える傾向にありますか?あるいは減っていますか?

・日本の図書館の事例などを知る機会はありますか?印象の強い図書館は?

・日本における図書館のイメージを刷新するべきことは何だと思いますか?私も多の人が誇りだと感じる図書館がほしいです