Memphis メンフィス
アメリカ南東部、テネシー州の西端にある。州都ナッシュビルに次ぐ同州第2の都市。19世紀に綿花産業を支える奴隷の大市場が開かれた歴史を持つ。1960年代には公民権運動が盛んになり、ストライキの応援に訪れたマーティン・ルーサー・キング牧師がこの地で暗殺された。白人の比率が80%近いテネシー州にあって、メンフィスは人口約65万人、そのうちアフリカ系アメリカ人が63%を占める。
*2019年現在。United States Census Bureauのデータに基づく
ギャング
メンフィス市は全米の中でも犯罪発生率が高いと言われる。だが、犯罪多発地域は限定されている場合が多く、その理由は、犯罪の多くがメンフィス市及びその周辺にあるギャング組織によるものだからであるとされている。メンフィスには180を超えるギャング組織があり、総勢8,500人以上のメンバーがいるという。犯罪多発地域とされているのは、フレイザー(Frayser)、ハリウッド(Hollywood)、オレンジマウンド(Orange Mound)、ホワイトヘーブン(Whitehaven)、アップタウン(Uptown)、ラレイ(Raleigh)。
参考:外務省海外安全情報、ギャング・ウォッチ「ストリートギャング・テネシー州」
音楽の街
メンフィスはブルース発祥地のひとつ。メンフィスのエンタテインメント地区「ビール・ストリート」では、B.B.キング、マディ・ウォーターズ、ハウリング・ウルフ、メンフィス・ミニーなど錚々たるミュージシャンが演奏した歴史があり、公式に「ブルースの故郷」と命名されている。また、エルヴィス・プレスリーの邸宅「グレイスランド」があることも有名。ロックンロール登場の一翼を担ったサム・フィリップスが創立した「サン・スタジオ」では、ブルース・ミュージシャンはもちろん、プレスリー、ジョニー・キャッシュ、ジェリー・リー・ルイスなどがレコーディングを行った。ジム・ジャームッシュ監督『ミステリー・トレイン』では永瀬正敏・工藤夕貴演じる日本人カップルが「グレイスランド」と「サン・スタジオ」を目指してメンフィスを訪ねる。60〜70年代のソウル・ミュージック黄金時代を支えたレーベル、スタックス・レコード(サテライト・レコード)やハイ・レコード、ゴールドワックス・レコードなどもメンフィスを本拠地とし、オーティス・レディングやアル・グリーン、ブッカー・T & ザ・MG'sといったアーティストを輩出している。なお、メンフィスでレコーディングをした忌野清志郎と中島美嘉はメンフィス名誉市民の称号を贈られている。
Swan Dying Swan 白鳥/瀕死の白鳥
リル・バックが踊った「白鳥」は、カミーユ・サン=サーンスの組曲「動物の謝肉祭」の第13曲「白鳥」を使ったものだが、バレエファンには、「瀕死の白鳥」という演目名で知られている。「瀕死の白鳥」は、現在ではクラシックバレエの枠を超え、あらゆるダンスのアイコニックな存在である。だからこそリル・バックのジューキン版「瀕死の白鳥」は大きなインパクトを与えた。白鳥の滑らかな動きをリル・バックの重力を感じさせないような動きが自由に表現し得ていることに見た人は驚きを覚えた。
20世紀初めに誕生した名作
「瀕死の白鳥」は、ミハイル・フォーキンがバレリーナ、アンナ・パブロワのためにサン=サーンスの「白鳥」で振り付けしたもので1907年に初演されたと言われる。湖に浮かぶ一羽の傷ついた白鳥が、生きようとして必死にもがき、やがて息絶えるまでを描いた約4分の小品だが、私生活でも白鳥を愛したパブロワは生涯に約4,000回演じたとも言われ、彼女の代名詞となった。パブロワは1922年の来日公演でも「瀕死の白鳥」を踊り、芥川龍之介や歌舞伎の六代目菊五郎、映画評論家の淀川長治らがパブロワの白鳥を見て絶賛している。
パブロワの死後、「瀕死の白鳥」は様々に改訂・翻案され、数限りないダンサーが踊ってきたが、最も有名なのは、マイヤ・プリセツカヤだろう。そのほかにも、ナタリア・マカロワ、ニーナ・アナニアシヴィリ、ウリヤーナ・ロパートキナなどが名演として知られる。男性ダンサーではジョルジュ・ドンが日本での世界バレエフェスティバルで踊り、変わったところでは、男性だけのバレエ団として人気のトロカデロ・デ・モンテカルロ・バレエ団がコミカルに翻案して取り上げている。
ジャンルを超えた白鳥
フィギュアスケートでも何度も使用され、約70年前のアメリカのソニア・ヘニーに始まり、ウクライナのオクサナ・バイウル、男性スケーターではアメリカのジョニー・ウィアーが演じており、日本の羽生結弦がエキシビション演目として使った「ノッテ・ステラータ」は「瀕死の白鳥」をイタリアのイル・ヴォーロが歌ったものである。
また、最近では、パンデミックのチャリティー企画としてミスティ・コープランド他32人の世界のバレエダンサーが自宅からバーチャルで「瀕死の白鳥」を踊り繋いだり(「Swans for Relief」)、シュツットガルトのレジデンスカンパニーであるゴーティエ・ダンスが17人の振り付け家による動画シリーズ作品「ダイイング・スワン・プロジェクト」をYouTubeで公開するなどしている。また昨年プロセストークが開催され、2021年に上演される岡田利規×酒井はなによるTRIAD INTERMISSION Vol.2「『瀕死の白鳥』を解体したソロ」は今から各界の注目を集めている。