美しく斬新なイマジネーション、思わず笑みがこぼれるユーモア。
			何より生と死に対する優しく深い洞察が、世界に驚きを与えた傑作!

2010年5月、第63回カンヌ国際映画祭。
最高賞(パルムドール)を競うコンペティション部門には、マイク・リー監督、ケン・ローチ監督、北野武監督、アッバス・キアロスタミ監督といった世界の巨匠たちの名が並んだ。審査委員長は『アリス・イン・ワンダーランド』の大ヒットも記憶に新しい鬼才ティム・バートン。果たして、いつもユニークなヴィジョンで映画世界を広げてきたティム・バートンは何を選ぶのだろう。

そしてパルムドールの栄誉に輝いたのは、『ブンミおじさんの森』だった。タイ映画として初のパルムドールだ。ティム・バートンは受賞の理由をこう語る。「世界はより小さく、より西洋的に、ハリウッド的になっている。でもこの映画には、私が見たこともないファンタジーがあった。それは美しく、まるで不思議な夢を見ているようだった。僕たちはいつも映画にサプライズを求めている。この映画は、まさにそのサプライズをもたらした」。

戦争やテロ、暴力といった世界の現実を題材にした作品が多かった2010年のカンヌ。その中で『ブンミおじさんの森』の美しく、そして斬新なイマジネーション、思わず笑みがこぼれるようなユーモア、そして何より生と死に対する優しく深い洞察が、この収縮した世界を甦らせる。パルムドール受賞によって、それは確信となった。

カンヌ常連のアピチャッポン・ウィーラセタクン監督、初の日本劇場公開!

監督は、アーティストとしてもヒューゴ・ボス賞にノミネートされるなど国際的に注目され、映画監督としても長編第1作『真昼の不思議な物体』が山形国際ドキュメンタリー映画祭で優秀賞を受賞、2作目『ブリスフリー・ユアーズ』はカンヌ国際映画祭ある視点部門グランプリ、3作目『トロピカル・マラディ』がカンヌ国際映画祭審査員賞に輝いているアピチャッポン・ウィーラセタクン。各国の映画祭で高く評価されながらも、これまで日本での劇場公開には至らなかったが、今回が満を持しての初の劇場公開となる。

ブンミおじさんと一緒に森を歩こう。
			心が不思議に優しく懐かしい感情で満たされるから。

腎臓の病に冒され、死を間近にしたブンミは、妻の妹ジェンをタイ東北部にある自分の農園に呼び寄せる。そこに19年前に亡くなった妻が現れ、数年前に行方不明になった息子も姿を変えて現れる。やがてブンミは愛するものたちとともに森に入っていく……。

ブンミと一緒に森を歩き、洞窟の中に入っていく私たちの耳に聞こえてくる静かな声が聞こえてくるとき、 心は不思議に懐かしい感情で満たされる。私たちのからだの中にある東洋の遺伝子が、ブンミを通して魂が繰り返し生きて行くことを思い出させてくれるのかもしれない。

この映画には、近代が失ってしまった闇があり、見えざるものがあり、穏やかな死がある。だからこそ光は美しく、世界は驚きに満ち、生は目映い。『ブンミおじさんの森』は、かつてそうであったものを、未来に伝える幸福な映画なのである。