草原の河

監督からのメッセージ

ソンタルジャ監督からのメッセージ

私は1970年代中頃の生まれだが、この世代の者の記憶は、中国の改革開放による時代の激変と同一の座標にある。時代の激変は物質文明の発達をたえず促してきた。だが、経済建設とグローバル化がますます進み、科学技術の手段と情報メディアがたえず刷新されていくにつれ、民族が継承してきた民間文化は破壊され失われようとしており、人々の心は物質的発展の速度に追いついていけなくなっている。「今は最良の時代であり、また最悪の時代でもある。」――イギリスの作家ディケンズのこの名言は、あたかも今の時代を解釈する最適な言葉であるようだ。
おそらく私の故郷について言えば、時代の変遷が精神面にもたらした衝撃は物質面で得た利益を遙かに上回る。私の『草原の河』は改革開放以後の中国の現状を背景とし、三世代のジェネレーションギャップを手がかりに、東洋文化の気風における父と息子、そして父と娘の、言葉では表現しがたい複雑な関係を描こうとしたものだ。
また、この映画では、人間の最も親密な関係の微妙な変化に着目し、情感の変化するところに生まれる心打つ瞬間を捕らえようとした。そして幼いヤンチェン・ラモの視点で、母親が第2子を身ごもった時を起点に、移りゆく季節の変化を物語の時間軸にして、祖父と父親グル、幼い娘と父親との、血のつながった親子のとらえ難く、同時に強い絆を見つめようとした。 東洋における父性愛は、往々にして沈黙と気恥ずかしさの中で表現されるので、時に理解されないことがある。私は、幼い少女の視点から、異なる世代の父性愛の表現にアプローチし、想いを伝えられなかったがために創ってしまった傷を描こうと試みた。その傷は歴史の傷であり、道徳の傷であり、そして、それ以上に文化の傷でもある。

監督

監督・脚本:ソンタルジャ

1973年5月29日生まれ。「草原のチベット」ともいわれるアムド地方、行政区では青海省海南チベット族自治州の同徳県に生まれ、牧畜民の中で育つ。父に教えられた伝統的な仏教画“タンカ”を学ぶとともに、少年の頃に移動映画で見て以来、映画に憧れる。青海師範大学の美術科で学んだ後、小学校の美術教師や美術館のキュレーターとして働き、1994年から2000年までの間に、美術家として"Life Series"、 "Red Series"など50以上の絵画を制作。その後、北京電影学院で学べる奨学金を受け、幼い頃から夢見た映画の世界に踏み出す。
美術監督や撮影監督として、チベット映画人の第1世代の重要なメンバーとなり、中でも今や世界的名匠と認められているペマ・ツェテン監督の『静かなるマニ石』(2005)や『オールド・ドッグ』(2011|東京フィルメックス・グランプリ作)などに参加していることはよく知られている。
2011年、初監督作『陽に灼けた道』を発表。自身の起こした事故で母を死なせてしまった青年の魂の道程を描いたこの作品は、世界中で高く評価され、バンクーバー国際映画祭、ロンドン映画祭、香港国際映画祭などで多数の映画賞を受賞した。本作『草原の河』が長編第二作となる。

監督写真