社会の多様化やデジタル化で、本をめぐる世界は大きく変わってしまった。書店は、本は、未来に生き残るのだろうか…いや、本の魅力は絶対になくならない。本を愛する人たちのそんな思いに応えてくれるのが、本作『ブックセラーズ』だ。世界最大規模のNYブックフェアの裏側から、業界で名を知られたブックディーラー、書店主、コレクターから伝説の人物まで、登場する人々の本への愛情、ユニークなキャラクターには誰もが心惹かれずにはいられない。インタビューに登場するNY派の錚々たる作家たちや、ビル・ゲイツによって史上最高額で競り落とされたダ・ヴィンチのレスター手稿やボルヘスの手稿、「不思議の国のアリス」のオリジナル原稿など希少本が多数紹介されるのもたまらない魅力だ。本を愛するすべての人に届けたい一級品のドキュメンタリーである。
デイヴ・バーグマンDave Bergman
大型本への偏愛著しいソフトボール狂のブックセラー。マンモスの標本付きの探検記や18世紀後半の化石の魚類の研究書を披露する。
ジュディス・ローリー(中)Judith Lowry
ナオミ・ハンブル(左)Naomi Hample
アディナ・コーエン(右)Adina Cohen
1925年にニューヨークで開業したアーゴシー書店の三姉妹。長女ジュディス、次女ナオミ、三女アディナ。
ジム・カミンズJim Cummins
40万冊以上の本を所有するブックセラー。エドガー・アラン・ポーの「タマレーン」初版本(表紙にコースターの跡のついた)を購入した。
アーサー・フルニエArthur Fournier
エフェメラと20世紀後半のカルチャーのスペシャリスト。ヒップホップに初めて注目したブックセラー。
スティーヴン・マッシーStephen Massey
オークションで有名なクリスティーズの書籍部門の創始者であり、鑑定士。史上最高額の本となったダ・ヴィンチのハマー手稿(レスター手稿)の競売人。
ビビ・モハメドBibi Mohamed
革製本の最も有名なディーラーの一人。バルザック全集40巻を前に「これは私が買うわ!誰も触らないで!」と叫んだ。
ヘザー・オドネルHeather O’Donnell
Honey and Wax Booksellersのブックセラー。1927年創業の老舗ストランド書店で、10代の時に仕事を始めた。
レベッカ・ロムニーRebecca Romney
人気テレビ番組「アメリカお宝鑑定団ポーンスターズ」に出演して有名になった若手ブックセラー。「上の世代は悲観的だけど、私は大丈夫。アイデアがいっぱいだから!」
ジャスティン・シラーJustin Schiller
先駆的な児童書のスペシャリスト。「オズの魔法使い」の作家ボームの生誕100年でコロンビア大学に初版本を貸し出し、「オズの少年王ジャスティン」と呼ばれた。
アダム・ワインバーガーAdam Weinberger
書店を持たないブックハンター。本を探すためなら、本を売りたい人、遺品整理したい人の元へどこまでも。愛猫家。エドワード・ゴーリーの猫が好き。
ヘンリー・ウェッセルズHenry Wessells
詩人、作家、SF のコレクター。元ABブックマンズ・ウィークリーの編集長兼記者。休刊が決まって、真っ先にクビになった。
フラン・レボウィッツFran Lebowitz
作家、エッセイスト、映画批評家、文化評論家、ジャーナリスト。1950年生まれ。高校中退後、さまざまな職を転々とし、72年にアンディ・ウォーホルの『インタビュー』誌に映画評を書き始めたのが作家としてのスタート。代表作に「どうでも良くないどうでもいいこと」「嫌いなものは嫌い」「チャスとリサ、台所でパンダに会う」など。Netflix 配信のマーティン・スコセッシの新作ドキュメンタリーシリーズ『都市を歩くように -フラン・レボウィッツの視点-』でも辛口のユーモアと皮肉が大人気で、今再びその著作も注目されている。
ゲイ・タリーズGay Talese
「ニュー・ジャーナリズム」を代表するジャーナリスト、作家。ニューヨーク・タイムズの記者を経て、エスクァイア、ザ・ニューヨーカー、ニューズウィーク、ハーパーズ・マガジンに多くの記事を寄稿。代表作に「王国と権力―ニューヨーク・タイムズをつくった人々」「汝の父を敬え」「汝の隣人の妻」「覗くモーテル 観察日誌」など。
スーザン・オーリアンSusan Orlean
ジャーナリスト、コラムニスト、作家。代表作に「アメリカの土曜の夜」、「蘭に魅せられた男」「リンチンチン物語―映画スターになった犬」「炎の中の図書館 110万冊を焼いた大火」など。「蘭に魅せられた男」はスパイク・ジョーンズ監督の映画『アダプテーション』の原作。
ケヴィン・ヤングKevin Young
ニューヨーク公共図書館ショーンバーグ黒人文化研究センターの所長、作家、ニューヨーカーの詩の編集者。
ニコラス・D・ローリーNicholas D. Lowry
イギリスBBC の人気番組「アンティークス・ロードショー」にも出演する鑑定士。特徴あるカイゼル髭がトレードマーク。
ジェイ・ウォーカーJay Walker
世界で最も素晴らしい個人図書館の一つであるウォーカー人類想像史図書館のオーナー。
グレン・ホロウィッツGlenn Horowitz
業界トップの知名度を誇るアーカイヴィスト。ウラジーミル・ナボコフやガルシア・マルケスからボブ・ディランまで手がける。
シリータ・ゲーツSyreeta Gates
ヒップホップのアーカイヴィスト、コレクター、ドキュメンタリー製作者。
エド・マッグスEd Maggs
ロンドンの老舗書店マッグスのブックディーラー。
ウィリアム・リースWilliam Reese
最も偉大な希少本ディーラーの一人と認められている。オバマ大統領時代に「独立宣言書」をホワイトハウスに献呈し、表彰された。
キャロライン・シンメルCaroline Schimmel
世界で最も重要な女性作家コレクションの持ち主。
エリック&ジェスErik DuRon and Jess Kuronen
NY の古書店として人気がありながら閉店したレフト・バンク・ブックスを蘇らせた若い店主。
トム・レッキーTom Lecky
元クリスティーズ印刷本&原稿部門責任者だったRiverrun Books の書店主。
ロブ・ウォーレンRob Warren
閉店してしまったスカイライン書店の店主。
リジー・ヤングLizzy Young
ブルックリンに書店を構える料理本のエキスパート。
マイケル・ジンマンMichael Zinman
アメリカで最も影響力のあるブック・コレクターの一人。
希少本
rare books
本作で登場人物が語る「rare books」という英語には「希少本」という日本語字幕をあてている。日本の古書界では「稀覯本(きこうぼん)」という言葉を使うことが多いが、以下の理由による。
・「稀覯」という言葉に一般的な観客は馴染みがなく、また漢字としても馴染みがなく、字幕を出すたびにルビが必要なこと
・「稀覯」と「希少」がほぼ同義語であること
・「稀覯本」は、和書では嘉永3年頃 (1850)、洋書では1500年以前に印刷されたものを稀覯本とみなすことが多いとされ、本作のrare books は、それにあたらない本を指す場合が多いこと。
ダ・ヴィンチのレスター手稿またはハマー手稿
Codex Leicester, Codex Hammer
映画に登場するレオナルド・ダ・ヴィンチの手稿は、1719年にレスター伯トマス・クックがイタリア人画家から購入したことで「レスター手稿」と呼ばれ、その後石油王アーマンド・ハマーの手に渡り、「ハマー手稿」とも呼ばれた。1994年、マイクロソフト社の創業者であるビル・ゲイツが、ニューヨークで行われたクリスティーズのオークションで2800万ドル(約28億4千万円)で落札。史上最高額の本となった。その内容は、水理学、天文学に関する事柄で、革の装丁がなされている。ゲイツは、その手稿を1年に1度、世界中の各都市で公開しており、2005年には東京の森アーツセンターギャラリーで展示された。2018年〜2019年には、ダ・ヴィンチの死後500周年を記念し、フィレンツェのウフィツィ美術館に展示された。また、手稿のページはスキャンされデジタル画像となり、その一部は、マイクロソフトのスクリーンセーバーや壁紙に採用されたこともある。
「不思議の国のアリス」の手稿
Alice's Adventures in Wonderland Manuscript
イギリスの数学者チャールズ・ラトウィッジ・ドジソンがルイス・キャロルの筆名で書いた児童小説。1865年刊行。キャロルが知人の少女アリス・リデルのために即興でつくって聞かせた物語がもとになっており、キャロルはこの物語を手書きの本にして彼女にプレゼントする傍ら、知人たちの好評に後押しされて出版に踏み切った。最初に手書きで作った『地下の国のアリス』が完成したのは1863年2月10日のことであったが、キャロルはさらに自分の手で挿絵や装丁まで仕上げたうえで、翌1864年11月26日にアリスに贈った。
「若草物語」のオルコットが偽名で書いたパルプ小説
Louisa May Alcott as A. M. Barnard
アメリカの作家ルイーザ・メイ・オルコット(1832-1888)は「若草物語(Little Women)」で知られる。「若草物語」の主人公ジョーと同じく、オルコットも主にA・M・バーナードのペンネームで「仮面の陰で(Behind a Mask)」他パルプ小説を書いていたことは、1943年にロステンバーグが論文を発表するまで世に知られていなかった。
監督/編集
D・W・ヤングD.W. Young
これまでサウス・バイ・サウスウエストやバンクーバー国際映画祭、メリーランド映画祭やプロヴィンスタウン国際映画祭、サラソタ映画祭など世界各地の映画祭で上映された作品を発表。主な作品に『A HOLE IN A FENCE』と『THE HAPPY HOUSE』や、2016年大統領選挙の夜に撮影された『 A FAVOR FOR JERRY』など。
エグゼクティブ・プロデューサー/ナレーション
パーカー・ポージーParker Posey
アメリカのインディペンデント映画の中で最も評価の高い俳優の一人。これまでに90を超える映画やドラマに出演し、ウディ・アレンやハル・ハートリー、クリストファー・ゲストといった名監督たちとも仕事を共にしてきた。主な出演作に『スリープ・ウィズ・ミー』『FLIRT フラート ニューヨーク編』『バスキア』『スーパーマンリターンズ』『ブロークン・イングリッシュ』『アイズ』『カフェ・ソサエティ』『コロンバス』など。現在、テレビシリーズ『宇宙家族ロビンソン』のリメイク作品で、Netflix で配信中のドラマ『ロスト・イン・スペース』にドクター・スミス役で出演中。
なぜこの主題に興味を持ったのですか?プロデューサーのダン・ウェクスラーの発案ですか?
ダンは希少本ディーラーと映画プロデューサーという二足のわらじを履いています。7年くらい前、彼は私とジュディス(もう一人のプロデューサー)に本を題材に映画を撮るのは良いアイディアだと言ったんです。ダンはその分野に詳しいですし、スタートする為の良いアイディアを持っていました。ジュディスと私は以前ニューヨークのブックフェアも行ったことがあり、視覚的にも面白いと思いました。私の叔父と叔母が本のディーラーだったこともあり、本の世界にいる素晴らしい人々についての知識もあったのです。ただ当時、他のプロジェクトが動いていたので撮影を開始したのは約3年前のことでした。
他のインタビューで、あなたは年配の世代が亡くなってしまうことを心配していました。同時に映画には新世代の人々の姿もありますね。
ダンはこの“必要性”を強く意識していました。彼はベテランのディーラーたちをよく知っていて、すでに亡くなった素晴らしい人々もたくさんいたからです。そのため、インターネット普及前を知る最後の世代に話を聞くことが最初の重要事項でした。加えて、インターネットが本の取引に与える影響を捉えることも重要でした。本の世界がどこへ向かっているかを実際に知る為に若いディーラーたちを映画に含めることで、私たちが探っていたことの重要な側面が深まりました。
映画を構成することは難しかったですか?
確かに主人公のような中心人物がいないという事実が出発点でしたが、私はブックフェアで始まりブックフェアで終わるという考えを気に入っていました。また、本や言語を扱う映画を作る上で必要だと考えたいくつかの引用は、映画の構造に作用していると思います。
本そのものがどのように耐え抜き、所有者たちよりも長生きするかについて語る叙情詩なんです。私は観客の皆さんに本の世界に没入してもらい、私たちが一緒に過ごしたディーラーたちとの素晴らしい時間を感じて欲しかったんです。ディーラー、ブックセラーたちはたくさんの質問に独自のやり方で答えます。私は彼らを映画の構造におけるジャズのソリストと考えるようになりました。
これは馬鹿げた質問かもしれませんが、珍しい物に囲まれての撮影ですから、相当気を配ったのですか?
価値の高い物は手に取らないようにしていました ( 笑 )。しかし興味深いのは、かなり腐敗した状態だったり壊れやすくなったりしている場合を除いて、本はきちんと処理されてページをめくっても良いとされていました。注意して、責任を感じているのであれば、我々は自由に希少本を見ることができるし、ディーラーも気にしません。幸いなことにプロデューサーのダンも希少本をたくさん所有しているので、他のディーラーに迷惑をかけなくても多くのビジュアルを得ることができました。私が最も緊張したのは、古書見本市でディーラーが30万ドル相当の地図を見せてくれた時でした。非常に繊細で壊れやすく、すでに半分裂けているようにも見えました。破ってしまうと30万ドルの価値がなくなるので、絶対に触りたくありませんでしたね ( 笑 )。
この時代に生きていると、書店を含む施設が私たちの生活でいかに重要な意味を持つか、はっきりと分かる気がします。
私は芸術や多くの知的で文化的な施設や機関の今後について本当に心配しています。特に映画館や書店は今の時期をいかにして乗り切るかが大切です。もちろん、それらをサポートすることには何にでも価値がありますが、皮肉なことに物理的な本の重要性とぶらぶら見て回ることで偶然に発見する楽しさも映画に含めました。物理的な本の代わりにデジタルの本を買うことができる時代にいるんですけどね。何もないよりはマシかな (笑)
順不同・敬称略
紙の本が別世界へアタマを飛ばす最良のメディアであることは疑えないが、
セラー、コレクター双方、ネット時代に疲弊の様子。
コレクション対象をSF、ヒップホップまで広げて少ない金の上手な使い方も教えてくれる。
滝本誠
ライター業
『ブックセラーズ』はCOVIDのせいで長く会えなかった親しい友人たちに会わせてくれ、「パンデミック」以前の本を巡るコミュニティーを映し出した、僕にとって郷愁を感じさせる映画です。
佐藤龍
「かげろう文庫」店主
「ブックセラー」になりたいと思って自分の店をはじめたが、やはりそれでよかったのだ。本を扱う仕事は大変だけどほんとうに楽しい。そんな本に憑かれた彼らの日常が描かれた愛すべき映画。
辻山良雄
書店「Title」店主
本ができる前にも物語はあるが、本ができたあとも、さらに物語は続いていく。紙の本には、どこから本が移動し、どんなふうに読まれてきたか、物語の跡がしっかり残っている。確かに、買いたくなる。
山崎ナオコーラ
作家
老舗書店のこだわり店主、びっくりするような個人図書館、
辛口コメントしか出さない強面女性作家、めくるめく希少本の数々……!
ニューヨークに旅行して古本屋めぐりをしている幸福感を味わえる、本への愛に満ちた映画!
中島京子
小説家
この地球には古本屋という人種がいます。本のある時間と空間を何より愛している。
この映画に登場する彼ら、彼女たちがいきいき楽しそうに本を売っている様子を見ると、
もしかしたら絶滅危惧種であるということが嘘のようです。
森岡督行
「森岡書店」店主
本が好きだ。本の匂いや重みや手触りがどうしようもなく好きなのだ。同じ知識や似たような夢でも無機質で小さな箱から得るものとは格段に幸福度が違う。この幸福が続くのであれば私は一生不完全なままでいいと改めてそう思えた。
青戸しの
モデル・ライター
NYに長く暮らし、古書店通いがやめられない。なぜそうなのか、ずっと不思議だった。それがこの映画を観終わりわかった。本は単なるモノではない。人から人へと手渡しされる過程で、彼らの思いやストーリーを受け継ぐメディアである。それを手に取り感じる瞬間が、ぼくはたまらなく好きなのだ。
新元良一
文筆家
世界で最もクレイジーで、ユニークで、禁欲的で、熱狂的な人間とは本を売る人間たち(ブックセラー)だ。
なぜなら彼らはみな本の魔法を信じているから。
BOOKS ARE MAGIC。
早坂大輔
新刊・古書店「BOOKNERD」店主
近著『ぼくにはこれしかなかった。』(木楽舎)
この映画の舞台であるニューヨークだけでなく、パリやロンドンやアムステルダムやトロントで本を漁った日々を思い出した。薄暗くて、胡散臭く、愛すべき店主がいる場所に、見たことのない本は確かにあった。偏愛と愛着の接合地点。人が体を引きずって生きていく以上、紙の本がなくなることはないと思う。もちろん、デジタル化も進むだろうけど、紙とそれとを使い分けられるくらい、僕らは賢くなっていけるはず。
幅允孝
有限会社BACH(バッハ)代表。ブックディレクター
紙上の言葉を愛する人々へのこの上ない御馳走...
完璧に消えてしまわないことを願いたい、
そんな生き方の刺激的なポートレートだ。
フランク・シェック
THE HOLLYWOOD REPORTER
愛おしく、懐かしい。
『ブックセラーズ』はまだ本を読み、
夢を見る人たちの為のドキュメンタリーであり、
魔法のテレポート装置のようだ。
オーウェン・グレイバーマン
Variety
この映画自体が一冊の本のようだ。
膨大な情報と知識、魅惑の塊を詰め込んだ
温かな友人に出会うようでもある。
ロレイン・カンブリア
THE KNOCKTURNAL
ニューヨークを代表する知識人、
フラン・レボウィッツやゲイ・タリーズの
洒落て気さくなコメントで彩られた本作を観たならば、
観客はすぐに街へ出て本を手に取り読むに違いない。
ナディア・サージ
FORBES
魅惑的。
この映画自体が珍しい本であり、真の宝物だ。
ジェイソン・アダムス
THE FILM EXPERIENCE