監督インタビュー
はじめてリル・バックに会ったのは、バンジャマン・ミルピエと仕事をしていた時のことです。彼のスタジオを訪れたら、リル・バックとリハーサルをしている最中だったんです。リル・バックはバッハに合わせて踊っていました。
リル・バックと一緒に過ごしていてまず感じるのは、彼がいつも希望を胸に抱いている感じの人間だと言うこと。いつもニコニコ笑みを浮かべていて、そのエネルギーが彼の周りにいる人たちに伝わっている。加えて、何よりもクリエイターだと感じます。毎日何かを創造しようとしている。芸術的なセンスも類がありません 。
製作期間はだいたい4年強かかりました。まずメンフィスに行って地元の人たちと交流したり、リル・バックとも交流したりして1年。2年目は資金集め。3年目からが実際の撮影で2年と6週間かかりました。4年目は編集作業です。
ドキュメンタリー作家にとってアーカイブ映像は宝物のような存在です。今回の場合は、リル・バックの幼少期からの映像がたくさんあったおかげで、今日に到るまでの変遷を語ることができているわけです。また、リル・バックの友人であるマネージャーもたくさんの映像を保管していました。何百時間にもなる映像だったので、彼のストーリーを語るのに効果的な最低限のものに絞り込み、今のようになりました。
映画の登場人物のひとりは、メンフィスという街です。ローラースケート場「クリスタル・パレス」を、全ての創造の源泉の象徴として据えたという意識があります。そこでは皆が円を描くようにしてスケートするのですが、映画の構造自体もそれを意識しました。メンフィスから生まれ出たものが遠くへ行ってまた帰ってくる循環の構造です。僕の頭の中でメンフィスといえば、ジム・ジャームッシュ監督の『ミステリー・トレイン』ですが、意識的か無意識的か、僕の映画のメンフィスにもその雰囲気が出ているかもしれませんね。ゴーストタウンでありながら、一種独特のエネルギーを放っている。クラブのライトの色とか、だだっ広さとか。メンフィスのストリートを繋げて、アフロアメリカンの文化がジューキンなどを生み出したんだとマントラのように唱えたいと思っていました。
今回の撮影にはステディカムを使いましたが、あまりスムーズになりすぎるのもよくない、ラフさや脆さも出したかったので、ハンディカムで撮ったりもしています。ステディカムでダンスの全体的な動きをしっかり撮るという手法と、足元を超クロースアップで撮る、手を超クロースアップで撮るという手法を混ぜたり、観客の皆さんを飽きさせないように、またダンスの多様な側面を見せようと心がけました。
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭ZOOMインタビューより抜粋
(インタビュアー : プログラミングディレクター長谷川敏行)
監督:ルイ・ウォレカン
Louis Wallecan
PROFILE
フランスで哲学と音楽学を学ぶ。映画プロデューサー、フランソワ・デュプラのアシスタントとしてキャリアを始め、クラシック音楽に関するドキュメンタリー作品などを数々手がける。2012年には、イタリア人指揮者を追い、ロベルト・アラーニャやマーティン・スコセッシも出演したニューヨークのイタリア移民コミュニティとオペラの関係を描くドキュメンタリー映画『Little Opera』を発表。2014年にはパリ・オペラ座の芸術監督に就任したばかりのバンジャマン・ミルピエのロサンジェルスでの活動を記録した『Dancing is Living : Benjamin Millepied』を発表。その作品に出演したリル・バックと知り合った。両作品とも多数の映画祭で上映され、高く評価された。本作は、『Little Opera』で始まったアメリカのオペラやダンスに関する3部作プロジェクトの締めくくりとなる。